Mashiro Chronicle

長文をまとめる練習中 割となんでも書く雑食派

アニメ『ウマ娘 プリティーダービー』に寄せて

2018春クールに始まるアニメは70本前後だったようだ。ここ数年と比較してもほぼ同等なのだが、よくよく考えてみるとこれはとんでもない数字だ。一体日本人の何パーセントが一週間に70本のアニメを見るのだろう。ほとんどの人は最初からある程度絞り込んでいるに違いない。

 

とはいえ、春クールも既に3話目を迎える作品が増えてきた。そろそろ「あっちの作品も見ておけばよかったな……」やら「この作品は少し肌に合わなかったな……」やら、雑念が蠢き始めている頃だろう。

 

いったいどの作品が話題になるかは蓋を開けてみるまで本当に分からない。他方、人間、なんだかんだ周りに話ができる人がいる作品を鑑賞しがちだ。話が通じない、という疎外感はごめんだからだ。

 

とはいえ、「流行りものに乗っかるのはアニメ好きの立場からやりにくい」というプライドからだろうか、話題になっているアニメを後追いすることに躊躇いを覚える人も多い。とりわけ、その作品が当初はイロモノ・キワモノ扱い寸前のところまで追いやられていた場合、何かしらの抵抗感を感じてしまう人は一定数いる。

 

今期のそんな「話題になっているが当初はキワモノ疑惑が拭えなかった」作品といえば、『ウマ娘 プリティーダービー』だろう。

 

Cygames肝入りの新規IPたる『ウマ娘』のアニメであり、配信前の宣伝も兼ねている作品でもある。制作は根強い支持層が厚いP. A. Worksが担当。CygamesとP. A.の二枚看板で、戦前から一定以上の注目度はあった。

 

が、実際に『ウマ娘』の視聴にこぎつけた人はどれくらいいただろうか。参考までに、アニメのtwitter公式アカウントのフォロワー数を見てみると(4月19日時点)、だいたい15,000強だ。この数字は、「そこそこ見ている人がいる」くらいに捉えていいだろう。ほぼ『こみっくがーるず』や『多田くんは恋をしない』と同数だ。さらに数値を出すと、『SAO オルタナティブ GGO』は10万を超えている。

 

とにかく、アニメファンの間では非常に高い知名度を誇る2社がタッグを組んでいる割には、という印象は否めない。

 

理由は2点ほど考えられる。まずそもそも、『ウマ娘』の設定がなかなか奇抜だ。数ある擬人化の候補の中からサラブレッドをチョイスしたのはなぜだったのか。冷静に考えて、馬は4本脚で大地を駆けるが、人間は二足歩行で文明を築いてきたのである。もういっそ無機物であれば納得できなくもないが、実在の生き物、それもネコのような愛玩動物ではなく、「走る」こと、4本脚であることに強い意味のある動物を選んだ理由がまったく読めない。事実、アニメにせよゲームにせよ、PVを見るだけでは、シュールという感想を抱いてしまいかねない。

 

さらに、Cygamesがどれほど力を入れているのか、その具合が読みにくかった、というのも心証を悪化させた。というのも、このゲーム、数年前から散々告知しておいて、未だにリリースされていないのだ。

 

そういうわけで、4月1日の深夜というまさにクールのトップバッターを務めるにもかかわらず、最初から敬遠ぎみの人が現れてしまったのであった。

 


 

しかし、『ウマ娘』のアニメは、今確かに密かな盛り上がりを見せている。P. A. WorksやバックのCygamesは、しっかりと細かいところまで注意を払いながら、実りあるアニメを作り上げつつある。

 

細かいところ、とは、具体的にどういうことだろうか。

 

まず、キャラの掘り下げ方が上手い。実在のサラブレッドがモデルのため、極端な改変を施すかどうかは悩みどころだ。とりわけ、アニメ版『ウマ娘』でメイン格として扱われている競走馬は、1990年代の(第2次)競馬ブームの頃の名馬たちだ。こうした馬たちはその知名度で中高年層を惹きつける一方で、扱いを間違えればファンからしっぺ返しをもらう可能性が高い。

 

その点、『ウマ娘』はサラブレッドのバックボーン――たとえば、出生地や両親・血統など――を屋台骨としながら、きっちりと一頭一頭のエピソードを盛り込めている。スペシャルウィークは大増量で皐月賞を逃したし、オグリキャップはいつでも何か食べている。エルコンドルパサーはクラシック競走(東京優駿など、3歳GⅠ競走の中でも特に格式高いとされているもの)たる皐月賞に出走できなかったし、ハルウララはどこかワンテンポついていけない。

 

アニメ制作陣、あるいはCygamesにとって幸運だったのは、ゴールドシップを出演させられたことだろう。ゴールドシップはGⅠ6勝、皐月・菊花の二冠馬であり、紛れもなく2010年代を代表する名馬だ。だが、多くの競馬ファンにとって、ゴールドシップとは破天荒な稀代のムラ馬として記憶されている。どんなバカをやって私たちを笑わせてくれるのか――あるいは絶望の淵に叩き込んでくれるのか――と、現役時はドギマギさせられたものだ。そんなゴルシだからこそ、作品中どんな奇行に走っても視聴者は受け入れられてしまう。これは本当に僥倖だった。緊迫した流れ、あるいはサラブレッドのイメージを大切にし過ぎるあまりの窮屈な流れの中でも、ふと笑いを生じさせるシーンをすべてゴルシに任せられるのだから。

 

個人的に関心したのは、かなり実際の競走を意識してローテーションや作戦を詰めているところだ。弥生から皐月の流れは(確かにスペシャルウィークが実際に辿った道なのだが)実在の競走馬にとっては理想の形である。また、中山2,000メートルの走り方もかなり実情を踏まえながら描かれていて、これならば競馬ファンも納得。

 

アニメとしてもかなり良質だ。たとえば1話を見てみよう。多くの人は尻尾の動きに驚いたようだ。そのとおりで、このいつでもブンブン振っている尻尾を描くためにどれだけの苦労があったのか、あまり考えたくない。上手い詰め指示やタイミングの取り方など、原画の力はもちろん、その要請に応える動画の力も必要な「細かさ」もあり、アニメーションとしての質の高さを私たちに示してくれる。

 

ウイニングライブのシーンをどう描くかはなかなか難しい問題だったようだ。楽曲制作は(ゲームの方とも絡んでいるからだろうか)耳に残るキャッチ―なフレーズを届けてくれる。他方、ライブシーンを描く労力たるや手描きだろうとCGだろうと相当なものであり、P. A. Worksはじめ制作陣が上手く避けられるように話を作っていることが窺える(そもそもライブシークエンスで肝要なのは撮影=カメラワークなのだが)。

 

ただ、コンテやシナリオに不満があるわけではない。特に、3話でセイウンスカイ皐月賞制覇を成すまでの流れは、敗れたスペシャルウィークを静かに責めるように、ゆっくりと、しかし着実に、セイウンスカイがいかに勝利の果実を噛みしめたかを描けていて、今のところ最も印象深いシーンになっている。

 

アニメとして面白い、というのは作品を継続して視聴しようとする強いモチベーションの形成を促す。当たり前の話だが、ここをしっかりと踏み外さなかった『ウマ娘』は流石と言うべきだろうか。

 


 

物語的には難しい舵取りを迫られるところまで来ている。具体的には、サイレンススズカが現実で被った悲劇をどうまとめるか、というその一点だ。4話から少しずつ現実の出来事から乖離し始めてはいるが、多くの競馬ファンにとってサイレンススズカの悲劇は彼女の「物語」の(よくも悪くも)重要な一部であり、ここばかりは避けて通ることができないだろう。流石に完全に退場させるとは考えにくいため、以降はスぺの支援に回るようになるのだろうか。どちらにせよ、決断の時は近い。

 

上のような難しさを未だ抱えてはいるものの、『ウマ娘 プリティーダービー』は確実にこのクールで存在感を放ち始めている。それも、放映開始前のような「よく分からない何かを作っている」という存在感の与え方ではない。明確にファンの心を掴んでいる。


鑑賞する時に多少競馬の知識があった方がよいのは間違いない。だが、P. A.にしてもCygamesにしても、あまりに深い知識を要求した結果ライト層が離れる、という事態は避けたいはずだ。事実、一つのスペクタクルとして『ウマ娘』のアニメを楽しむことも十分できる。そうした楽しみ方を支えているのは、競馬ネタに裏打ちされた小ネタそのものではなく、むしろその小ネタをどう見せるかというアニメの技術の方である。そう考えると、『ウマ娘』はアニメとして、今から追いかけ始めても恥ずかしくない作品なのかもしれない。あなたは自信を持ってこう言うことができる。

 

「『ウマ娘』さ、アニメとして面白いんだよ」

 

あなたの「アニメ好き」としてのプライドを穢さないようにムーブメントに乗るチャンスが、今巡ってきている。