Mashiro Chronicle

長文をまとめる練習中 割となんでも書く雑食派

緩急自在の筆致、達人芸 【『まおてん』プレイ感想<ネタバレなし>】

短評(要旨)

 

きゃんでぃそふと(CandySoft)の最新作・『まおてん』は、イントロダクションからは想像もつかないところに着地した、驚きの作品になった。流行りのラノベを思い起こさせるキャッチ―な設定を前提にしたコミカルな掛け合いは見ていて飽きがこない。他方、いちゃラブやシリアスシーンも充実の一言に尽きる。性質の異なる話が組み合わさることで作り上げられるテンポは圧巻だ。それでいて、作品全体のコンセプトや生きとし生けるもののぬくもりが随所に感じられるのは、円熟の域に入ったライターの腕力が為せる業だと言えるだろう。

 


 

2017年末に現れた彗星・『金色ラブリッチェ』は広くエロゲユーザーに受け入れられ、一躍シナリオライターさかき傘をスターダムに押し上げた。あれから半年、『金恋』以来となるさかき傘シナリオのエロゲ、きゃんでぃそふとの『まおてん』は、またしても私たちに驚きをもたらしてくれた。

 

『まおてん』のあらすじ(イントロダクション)を読んだ人は、一瞬面食らうかもしれない。魔族、魔王、平和な日常……書店に数多陳列されたラノベの概要を煎じて煮詰めたかのような文章が並んでいる。公式サイトのゲーム概要を眺めてみると、さかき傘が書いているラノベから世界観を流用していると書いてあるので、その感触もあながち間違いではない。

 

しかし、だ。『3学期』以降の『つよきす』を支えるところから名を上げたさかき傘が、こときゃんでぃそふとの作品でそうそう平凡なシナリオを用意するわけもない。『まおてん』は、そのキャッチ―(過ぎる)タイトルと設定からは想像もできないような、極めて完成度の高い作品に仕上がった。

 

まず舌を巻くのは話のテンポのコントロール。ネットミームあり、パロディネタあり、悪ノリあり、とごった煮のようなコメディパートは怒涛の勢いでギャグが現れては消費されていく。上でリンクを貼ったアウトラインに「ドタバタハチャメチャな雰囲気」と書いてあったので多少は覚悟していたのだが、こちらの想像を上回る速度でネタが通り過ぎていった。よくもまあここまでキャラの特徴を引き出しながらギャグを回せるものだ、とその点だけでも感心する。しかし、真に驚くのはそこからほぼシームレスに繋がるシリアスシーンやいちゃラブパートとの緩急の差。テンションは滝のごとき落差で、しかしよどみがない流れを作り上げている。私たちプレイヤーを手玉に取るその手腕たるや圧巻だ。

 

もちろん、シリアスなシーンや恋愛パートそれ自体の出来栄えも素晴らしい。シリアス展開では緊迫した状況や追い詰められるキャラの感じる孤独が一文ごとににじみ出てくる。他方、ヒロインとの一対一での交流には言動の節々から相手の機微が伝わる。醸し出される雰囲気には濃厚な甘みが詰まっていて絶品だ。

 

そこまで個々のシークエンスの完成度が高いながら、シナリオのコンセプト(ネタバレになるため割愛)やキャラの抱いている相手へのぬくもりなど、話全体を貫く太い柱が随所から見えてくるのも憎い。見せ場かと前のめりになるようなド派手な戦闘シーンがやや拍子抜けで終わるのも、ヒールとしての役回りが明らかに過剰なキャラが存在するのも、シナリオを読み切ってみれば納得の措置だ。悪だくみしかしないようなキャラはたとえシリアスパートの真っただ中でも軽い筆致で描かれる一方で、物語終盤のカタルシスに関わるキャラの描写はこちらにボディーブローをかましてくる。計算され尽くされた描き分けのプランも、やはり全体を見てみないと分からないようになっている。完成度の非常に高いシナリオだ。

 

シナリオばかり話題にしているが、その他の要素もバランスがいい。エロゲとしては気になるキャラの属性振り分けも、ロリ巨乳・ギャル幼馴染み・貧乳コンプレックス義姉とメインヒロインだけでもかなり多様性がある。パッケージ裏に「女性キャラ全員攻略可能!」と謳ったように、サブヒロインの数も多く、それぞれ個性や属性がばらけている。バランスがいい分、気に入った子との絡みが少ないと物足りなさを感じる時もあるが、その他のキャラとのストーリーの完成度も申し分がなく、ゲーム全体に対し不満を抱くことはまずないだろう。

 

CGの質も高い水準でまとまっている。Hシーンについて言えばプレイの種類もかなりあるので枚数を描くことには苦労があっただろうと思われる。しかし、きゃんでぃそふとはその苦労をきちんと乗り越えて、しっかりと量・質ともにコントロールされたCGを提供してくれた。立ち絵にしても、動きが多彩で見ているだけで楽しめる。

 

全体として高水準でまとまった一本になった『まおてん』。寝苦しい夏の夜、つい目が覚めてしまった時、時間を共に過ごしてくれる良き相棒となること間違いなしだ。早くもこの夏の決定版に名乗りを上げた『まおてん』がここまでの完成度で世に出たことを、素直に喜びたい。