Mashiro Chronicle

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驚愕の完成度 2018年のマストプレイ【『みにくいモジカの子』プレイ感想<ネタバレ配慮>】

本稿はニトロプラスの最新作『みにくいモジカの子』の感想だ。ネタバレには極力配慮しているが、情報をまったく仕入れない状態でのプレイを所望している人は念のため気を付けて読んで欲しい。

 


 

作品概要

・かなり特殊な画面構成とルート分岐の方法を持つニトロプラスの最新作

・伝奇モノに近い部分を持つが、ジャンルを特定することは難しい

・一部にややグロ描写あり

 

ここがオススメ!

・作品全体を貫く演出プランがあり、創作物として強度がある

・プレイの幅が広く、Hシーンにも好印象

 


 

凄まじい作品だ。プレイし始めた時、話が進んで全体の骨格が見えてきた時、そして、物語を見届けきった時。そのいずれにおいても、全く同じ感想を持った。

 

『凍京NECRO』以来となるニトロプラスの最新作は、あらゆる面で衝撃的な仕上がりになっている。いや、ニトロプラスの作品なのだから、全方位に対し尖っているのは戦前から分かりきっていたことではある。しかし、それにしても『みにくいモジカの子』(以下『モジカ』)は発射点から着地点までその軌道含めて何一つ予測させることなく私たちの前に舞い降りたように思われる。

 

余裕があれば、体験版を開いてみて欲しい。開始5分で嫌悪感から頭痛がしてくること間違いない。冒頭の段階で作品の側がプレイヤーを選別しにかかっているかのようにすら思えてくる。嫌悪感の方向は違えど『沙耶の唄』を彷彿とさせるほどだ。

 

その上、いつまで経ってもテキストボックスが現れない。常にテキストは画面のど真ん中に表示されている。かわいい女の子の顔も全く見えてこない。果たして自分は今何をプレイしているのか分からなくなる。

 

画面構成(と仮に名付けておこう)の段階で既存のエロゲの枠で測られることを拒否している『モジカ』は、ルート分岐の方法も特殊だ。その特殊なルート分岐の方法も、何一つ説明されない。ユーザーフレンドリーという言葉の対極にあるかのような、来るもの拒み去るもの拒まずという表現がしっくりくる、まるで孤高の女性のようなゲームだ。

 

しかし――いや、だからこそ、と繋げた方が適切だろうか――、その分『モジカ』は骨太だ。咀嚼しても咀嚼してもまるで砕ける気配がしない。押しても引いてもびくともしない、まるで一つの建築物のような存在感と重みがある。

 

それもそのはず、この作品は骨組みがしっかりしているのだ。全体を従える大きな大きな演出プランが存在することに、おそらくすぐ気が付くだろう。普通のエロゲとは違う部分のほとんどはその演出プランが発露しているに過ぎない。その一方で、そうした演出プランや付随する前衛的な表現は、これまでのエロゲを踏まえた、いわば歴代のエロゲの産物であることにも、じきに気が付くと思われる。『モジカ』は、決して奇異なだけの作品ではない。むしろ、エロゲの特性をよく理解している。

 

上で挙げた、画面中央に表示されるテキストについて、少し考えてみよう。なぜ、ニトロプラスはこれまでの画面下部に表示されるスタイルを採用しなかったのだろう。

 

理由はいくつか考えられるところだ。一つには、この作品が明確に一人称視点を意識したゲームである、というところに求められるだろう。『モジカ』は、昨今流行りのVRアダルトビデオのごとく、徹底して一人称視点にこだわりを持ったソフトなのだ。もちろん、普通のエロゲも主人公の一人称視点で原則画面が移り変わっていく。しかし、エロゲはしばしば、たとえばCGのアングルの都合などで一人称視点が崩れる。その点、『モジカ』はあるワンシーンを除いて全て一人称視点だ。Hシーン含めて常に私たちの目は主人公の目と一致する(逆に言えば、その一人称視点が崩れる一瞬は、物語にとって決定的な瞬間である)。

 

一人称視点にこだわるならば、テキストは半ば必然的に画面中央へと移動せざるを得ない。なぜならば、画面下部にテキストが存在する限り、私たちプレイヤーの目線は画面の足元へ足元へと引っ張られるからだ。すなわち、いつまでも主人公の視界とプレイヤーの視界が一致しない。それではダメだったのだ。

 

では、もう少し掘り返して、なぜわざわざ一人称視点にこだわったのか、という疑問も考えてみよう。この作品が自称する「心身視姦ADV」が示すとおり、『モジカ』は「見る」という行為を作品の根幹に据えている。「誰が」「何を」見るのか、ということに意識を向けた作品ならば、視点へのこだわりは半ば当然のものとして立ち現れてくる。

 

このように、ある表現やギミックは、思いつきで投入されたものではなく、全て一つの樹の中にあるものなのだ。

 

面白いのは、そうした「相手の思考を『見る』」というコンセプトすら、あるいはエロゲの文脈を押さえたものなのかもしれない、という点だ。エロゲでは、ヒロインの心情を描写するため、頻繁に主人公がいないはずの空間での会話や、主人公が到底知り得ないヒロインの思考が頻繁に文章化される。明確に視点人物がずれることもあれば、なあなあで済まされることもあるが、これはエロゲ以外の文章ではまずほとんど見られない表現だ(参考までに、エロゲ出身のライターはこれを他のメディアに応用することがある。たとえば、丸戸史明ライトノベル冴えない彼女の育てかた』では、章の頭に視点人物が通常と異なることを明記した上で話を進めている箇所が本編中いくつか見受けられる)。

 

ヒロインの心情まで把握できてしまう私たちプレイヤー(主人公ではない)とはいったい何者なのか…… ゼロ年代評論ではこのようなことも若干話題になった。ニトロプラスは、意図してか無意識にか、ヒロインの思考を「見る」ことができるという設定で、これまでのエロゲの文脈を踏まえながら、プレイヤーと主人公の垣根を取り払うことに成功している。

 

このように、『モジカ』は決してエロゲの埒外にいるわけではない。だが、私たちはたとえその事実に気付こうとも、そんなことを頭の片隅にもとどめておけない。その設定から繰り出される物語も強烈だからだ。

 

このシナリオは、おそらく多くの作品(エロゲに限らない)を参考にした上で執筆されたはずだ。まずもって、「モジカ」という能力名がそれを示唆している。カタカナで表記されると気づきにくいが、本編が始まって間もなく、モジカとは文字化のことだと言及された段階で、ある高名な小説を思い浮かべる人も多いだろう(余談だが、『モジカ』本編のシナリオ中にはある漢字がただの一度として出てこない。そのこだわりに敬意を表する。参考までに、逆に「渦」という字は印象的に用いられていることをここで指摘しておきたい)。

 

そうでなくとも、そもそも『みにくいモジカの子』というタイトルすら、童話『みにくいアヒルの子』のパロディーであることは明らかだ。そして、この「みにくい」という言葉が、作品を読み解く鍵になっていることにも注意を払いたい。みにくいアヒルの子は、やがて美しい白鳥へと育っていく。では、みにくいモジカの子は…… というのはネタバレになるから控えておこう(もちろん、『~アヒルの子』をそのままなぞるわけではない)。

 

それら多くの作品を裏支えとしながら、『モジカ』は容赦なく主人公を、そしてヒロインを追い詰めていく。醜い真実と甘美な嘘、あるいは醜い嘘と甘美な真実の狭間で、主人公は幾度となく破滅を経験する。エロゲ(特に萌えゲー)において死が厭われるようになって久しい――それこそ泣きゲーにおいてすら――が、『モジカ』は躊躇わない。伝奇モノの特性を活かしながら、『モジカ』は死よりも悲惨な現実を突きつけては、プレイヤーごと主人公をどん底へと落とし込む。私たちは、自分で「見る」か「見ない」かを選択しなければならない。その決断の結果がどのようなものであれ、自らの行為の帰結として受け入れなければならない。脱落者を多く生むであろう冒頭パート以上に辛い物語が幾つも用意されているが、それを「辛い」と感じるのは、畢竟決断の責任をプレイヤー自身が負っていると感じるからだ。没入感の高い一人称視点の合わせ技もあって、設定と物語が組み合わさった力強い作品の脈動が、そこに生まれている。

 

物語が残酷なら、その中で繰り広げられる性行為も過酷だ。クリア後に参照できるライナーノーツで「本気のエロゲ―」と表現されたとおり、あらゆるプレイが私たちを、そしてヒロインを待ち受ける。CGの完成度も高く、好みが合えば何度も見返すことになるだろう――そのセックスがいかに無慈悲なものであっても。果たして本当に醜いのは誰なのか、私たちは下手をすると泣きながら自慰に耽る羽目になるかもしれない。

 

この作品のシナリオと演出の絡まり合いについて語ろうとすれば、それだけで独立に記事が書けるだろう。この文章で全く触れていない要素だけに絞っても、背景と音楽(BGM・OP・ED)がまるまる残っている。一言だけ残しておくのであれば、そうした諸要素もまた、結局は有機的に結びついて『モジカ』を構成していくのだ、とコメントしておきたい。特に、環境音を中心としたBGMは注目に値すべきで、奇妙な高周波音が鳴るなどしながらも、終わってみれば静謐な作品だったという印象を与えている点で特異だ。

 

ニトロプラスとしても環境の変化などに苦しみながら作り上げた『みにくいモジカの子』。だが、苦しみ抜いた分だけ、作品は光り輝いている。手を伸ばしても伸ばしても届かないところにまで至ってしまっていて、さながら星のような仕上がりだ。真実を見続けたその先に、あなたは何を見つけるだろうか。作品に打ちのめされないよう注意しながら、とにかく手に取ってみて欲しい。怪物の誕生を祝いたい。